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東京地方裁判所 平成8年(ワ)13987号 判決

原告

小林邦司

右訴訟代理人弁護士

茨木茂

浅野晋

被告

株式会社アムパック

(以下「被告会社」という。)

右代表者代表取締役

逆瀬川弘毅

被告

浅田秋夫

外二名

右四名訴訟代理人弁護士

矢島惣平

久保博道

主文

一  被告らは、原告に対し、各自、金一〇五九万二八八五円及びこれに対する平成七年九月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その一を被告らの連帯負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

被告らは、原告に対し、各自、三五〇〇万円及びこれに対する平成七年九月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、ゴム等の商品先物取引で損失を被った原告が、商品取引員である被告会社及びその営業社員であるその余の被告らに対し、本件取引の勧誘から取引終了に至る一連の被告らの行為は商品先物取引の受託業務として社会的に許容された範囲を逸脱する違法なものであるとして、民法七〇九条、七一九条(被告会社については選択的に七一五条)に基づいて損害賠償を請求する事案である。

二  請求原因の要旨は次のとおりである。

1  原告の経歴・職業、商品先物取引歴

(一) 原告は、昭和一四年一月一日生まれで、高校卒業後芸能界に入り、長年殺陣師の仕事をしてきた者で、経済・金融関係には疎い。

(二) 本件取引前の商品先物取引との関わりは、二〇代前半のころ、殺陣師の修業をしていた時に先輩から誘われて、この先輩に五ないし一〇万円を一回預けて一か月位で若干儲かったという経験があったのと、昭和六〇年か六一年ころ、先物取引会社に勤めていた兄から中身も知らされずに、「名前を借りて取引をやった。」と言われたことがあったという二つの出来事だけであり、いずれも自ら取引員と契約し外務員とやりとりして取引を行ったというものではなく、無知識、未経験と言ってよい。

2  勧誘

被告会社渋谷支店の外務員であった被告浅田は、平成七年一月一三日午後二時ころ、部下の山野井珠恵を伴って、原告の勤務先である株式会社若駒プロ(以下「若駒プロ」という。)の事務所を飛び込み訪問し、原告に対し、「今、金が安いから買いませんか。六〇〇〇円位まで高かった金が今は一二〇〇円位まで下がっています。」と申し向けた。原告は、「それはいい話だ。」と思ったが、資金がなかったので、「お金がないからやれません。」と断った。すると、被告浅田は、「塩漬けになっている株券はありませんか。」と尋ねてきた。原告が「塩漬けって何ですか。」と問い返すと、被告浅田は、「買った株が値下がりして売るに売れない株のことですよ。」と説明した。たまたま原告は、そのような株券を有していたので、「ああそれなら有りますよ。」と述べ、被告浅田に問われるまま、銘柄と株数を教えた。被告浅田は、「それはもったいない。当分の間株は上がりませんよ。金はこれだけ動けばこれだけ儲かります。株は売る必要がなく、預けるだけで金の取引ができます。今、金を買えば儲かることは間違いありません。」などと盛んに勧誘し、原告に取引を迫った。そのため、原告は、被告浅田の話を信じ込み、「では株を預けて金を買ってみましょうか。」と、被告会社と取引する旨の返事をした。

3  金取引の開始

原告は、一月一四日午後、被告浅田に対し、若駒プロの事務所で被告会社との金の先物取引の委託証拠金代用証券として、株券を手渡し、同時に被告浅田に指示されるまま、何やら書類を作成させられた。一月一七日午前、職場にいた原告は、被告浅田より、「預った株券を担保に金を一〇〇枚買います。今こんなに安いから必ず上がりますよ。いいですね。」という電話を受けた。先行きの相場について全くわからない原告は、被告浅田の言を信じるほかなく、「よろしくお願いします。」と承諾するほかなかった。

4  小豆取引の勧誘

原告は、一月二三日午前、自宅にいたところ、被告浅田から「金は一寸下がっていますが、今小豆なら利益がとれそうなので小豆を二〇枚売らせてください。」と電話で勧誘された。原告は、どのような取引をすれば有利なのかまるでわからなかったので、被告浅田の言を信じ、その旨承諾した。その後、一月二七日、二月九日と原告名義での小豆取引が続いたが、いずれも原告がよくわからないうちに、被告浅田の判断で進められたものである。

5  ゴム取引の勧誘

原告は、二月一〇日、自宅で、被告浅田から「小林さん、あの時小豆をやってもらって良かった。六六万円ばかりプラスになりました。どうです、金は一寸損してますが、思い切って損切ってゴムを一〇〇枚売らせてくれませんか。金の損を取り返さないとね。」という電話勧誘を受けた。金取引で損を出してもゴム取引を行えば取り返していけるという趣旨の内容であり、相場の見通しについてまるでわからない原告としては、被告浅田の言を信じ、そのとおり承諾した。

6  ゴムの頻繁売買と大損発生

(一) 被告浅田は、二月一四日、原告に対し、電話で「小林さん、判断が早くて良かったですよ。金は二〇〇万円ばかりマイナスでしたが、ゴムが四〇〇万円ほど利が乗りましたから利食います。そして、ゴムは更にもっと下がりますから五月限を一〇〇枚売りますけどいいですね。」と言った。いつ、何を売買すべきかの判断能力がない原告としては、被告浅田の言うとおりにするほかはなかった。

翌一五日も被告浅田から原告に電話があり、「まだ証拠金の余裕がありますから、ゴムの六月限を七〇枚売らせてください。今はゴムが売り時です。などと盛んに勧誘してきた。相場の見通しがわからない原告としては、被告浅田の言うとおりにするほかはなかった。

翌一六日も被告浅田から原告に電話があり、「小林さん、うまくいってますよ。一四日の一〇〇枚、昨日の七〇枚の両方とも利が乗ってますよ。とりあえず利食って、上がったところをまた売らせてください。そうすれば、もっとどんどん利益が取れます。」などと勧誘した。相場の見通しについて何の判断力もない原告としては、被告浅田の言を信じ、ただ承知するほかなかった。右同日、再び被告浅田から電話があり、「ゴムの売玉六月限一〇〇枚と四月限一〇〇枚ができました。」と連絡があった。この連絡を受けた原告は、さすがに取引料が二〇〇枚と多くなっていることに不安を抱き、被告浅田に対し、「そんなにやって大丈夫なの。」と懸念を示したが、被告浅田は、「いやまだ余裕がありますから。」と答え、全く心配はないかのような口振りであった。

(二) 翌一七日からも連日、被告浅田は、原告名義のゴム取引を頻繁に繰り返し、二月二三日には売建玉を三〇〇枚という多数枚にした後、翌二四日、売玉二〇〇枚をはずして約一四〇〇万円という莫大な損金を発生させた。原告が被告浅田に「どうしてこんなに損が大きくなる前に玉を切ってくれないのか。」と尋ねたところ、被告浅田は、「いやー。こんな暴力相場はないですよ。」と自己の責任を回避する言い方をするとともに、「これから頑張って取り戻しますから。」などと述べた。原告は、被告浅田を怒らせて気分を害すると、今後うまくやってくれないのではないかと危惧し、それ以上被告浅田を責めるような言い方はせず、ただ「これからはあまり売買をせずにチャンスのある時だけにしてほしい。そして、三円逆にいったらすぐ仕切ってもらいたい。」旨被告浅田に伝えた。原告は、相場変動要因についての知識などはなく、自ら相場観を持つほどの能力は全くなかったため、今後の相場見通しがわからない原告としては、少し値段が逆にいったら早々に仕切って逃げていれば、大損はないだろうという単純な考えから、右申入れをしたものである。

7  担当者が被告大沢に交代

その後、二月二七日から三月一五日まで、被告浅田の方で何回か原告名義のゴムの売買取引を繰り返した後、三月一七日ころから、被告会社の担当者が被告浅田から被告大沢に交代した。原告は、右両被告に対し、「売買は頻繁にやらないでチャンスのある時だけに行い、三円逆にいったらすぐ仕切り、追証のかからない範囲で売買をしてください。」旨申し入れ、被告大沢は、「その様に売買を行う。」旨約した。

8  担当者が被告恒吉に交代

三月二九日から五月一九日まで、被告大沢によって原告名義のゴムの売買取引が何回となく繰り返された。その後、五月一九日に建てられた買玉一〇〇枚がずるずると値下がりし、大きな値洗損を出し始めた。原告は、被告大沢に対し、「三円逆に動いたら仕切ってくれと伝えていたのにどうして仕切ってくれないのか。」と問い詰めると、被告大沢は、「申し訳ない。仕切る機会を失ってしまった。ただ何しろ取り返しますから待っててください。」などと言うばかりであった。原告は、自分では売買の判断ができないので、「取り返します。」と自信を持って述べている被告大沢に頼るほかはなく、「ではくれぐれもよろしくお願いします。」と言うほかはなかった。ところが、損が回復されないまま、被告会社の担当者が被告大沢から被告恒吉に交代してしまった。原告は、被告恒吉にも「売買はチャンスのある時だけにしてください。三円逆にいったら仕切ってください。追証のかからない範囲でやってください。」と強く申し入れた。被告恒吉は、「わかりました。」と述べ、「一生懸命、損を取り戻すようにやります。」と原告に約した。

9  被告恒吉による頻繁な売買

六月一二日以降、被告恒吉によって「損を取り返すため」と称して、取引枚数も大きくされて、有害無益な両建や因果玉の放置などの手口も使われて、原告名義のゴムの売買が頻繁に繰り返された。そのうち、八月八日に建てられた八〇枚の売玉が仕切られないままずるずると値洗損を発生させ始めた。原告が被告恒吉に「三円逆にいったら仕切ってくれと言っていたのにどうしてそのようにしないのか。」と問うと、被告恒吉は、「いや申し訳ない。すぐ戻すと思いましたので仕切らなかった。何しろ取り戻しますから待っててください。」などと答えたので、原告は、被告恒吉の「取り戻しますから」という言葉を信じて引き続き待つほかなかった。

10  取引終了

被告恒吉は、その後も原告に対し、その時々で場当たり的な甘言を述べてその旨原告を誤信させ、損金回復の期待を抱かせつつ、ずるずると原告の取引を引っ張り、結局原告のゴム取引は追証状態となり、被告会社において「追証拠金が入らない」ことを口実に、九月一一日までに原告名義のゴムの全建玉を強制的に仕切った。この結果、原告のゴム取引では、合計三〇七三万〇九〇八円(うち手数料二一七四万六七〇〇円)という莫大な損金が確定した。

11  被告らの行為の違法性

商品取引員とその従業員は、商品先物取引の受託業務を行うにあたり、顧客に対し、誠実かつ公正に業務を遂行すべき基本的義務を負っている。

(一) 危険性の正しい説明の欠如

商品取引員及びその従業員は、当該顧客に対し、商品先物取引の危険性を真に理解させるまで説明しなければならず、単に「商品先物取引には危険もある」旨記載された文章を示すだけでは理解させたことにはならない。すなわち、商品先物取引の一般委託者の大部分は損に終わっており、「今がチャンスだ」と思って始めてもほとんどの人は結局は損するということを十分に理解させる説明をしなければならないのであって、これに反し「損することはない」あるいは「損することはほとんどない」旨思い込ませることは、危険性を正しく説明したことにはならない。

被告らは、原告に対し、右の意味での商品先物取引の正しい説明をしなかった。被告浅田の甘言により、「絶対儲かる」と思わされて取引に引きずり込まれ、その後「損を取り返すから」という被告大沢や被告恒吉の甘言に惑わされて先物取引の泥沼の中で翻弄され搾取され尽くされたのである。

(二) 過当取引

本件取引当時の一般委託者の一人当たり平均建玉枚数は四一枚にすぎない(平成六年度データ)。ところが、原告は、いきなり金一〇〇枚の取引をさせられ、ゴムも一〇〇枚から取引を開始させられ、最大四八〇枚(七月一二日から同月一七日までのゴムの取組高)にもなっている。また、取引回数もきわめて多い。本件取引期間(平成七年一月一七日から同年九月一一日までの間の取引所立会日は一六六日間)中の売買回数(新規と仕切各一回として)はゴム一二二回、小豆六回、金二回の合計一三〇回であるから、平均約1.25日に一回何らかの売買がされていたことになる。右のとおり、取引量及び取引回数ともに異常に多く、通常の程度をはるかに超えた過当なものであったため、原告の損金や手数料の額が通常より大きいものになっている。

(三) 両建、因果玉の放置

因果玉とは、仕切られずに値洗が損計算となっている建玉をいう。これは、仕切時を誤り、値洗損が増大するまま放置された後に仕切られて、大きな確定損を発生させることになる。本件でも、放置された因果玉が大きな損を発生させている。たとえば、ゴムで言えば、別紙売買経過表(ゴム)の4、14、28、41ないし44番(1欄の番号で示す。)などは典型的な因果玉であり、それを仕切った結果の損金は、順次、七一八万三五四三円(うち手数料六六万二〇〇〇円)、三三七万円(同三三万一〇〇〇円)、一〇四二万四五〇〇円(同六六万二〇〇〇円)、八八四万三五〇〇円(同五二万九六〇〇円)、一八二万六〇〇〇円(一三万二四〇〇円)、一三七万二五〇〇円(同九万九三〇〇円)、一四一万七五〇〇円(同九万九三〇〇円)であり、その合計は三四四三万七五四三円(同二五一万五六〇〇円)にもなっている。

被告らは、常に素人委託者に対し、因果玉のおそろしさを説明し、建玉が因果玉とならないように常に顧客の注意を喚起させるべきであるにもかかわらず、値洗損を生じさせている建玉を仕切らずに、手数料や証拠金を増大させるだけで委託者にとって有害無益な両建状態にするなどこれに逆行するような売買をしている。

(四) 外務員主導の取引

先物取引が認められている根拠の一つは、公正な価格の形成にあるところ、自主的判断能力がなく業者の言いなりになるしかない者が取引に参加しても公正な価格の形成には役立たず、かえって自由な思惑の投げ合いによる価格の形成作用を歪めるおそれがある。しかしながら、被告らは、自己の利益のために先物取引制度の目的に反して、自主的判断能力のない原告を搾取の対象として顧客に引き込み、思惑通り素人の原告を自由に操った。

(五) 新規委託者保護義務違反

商品取引員は、日本商品取引員協会の指導によって、新規委託者保護の社内規則として、「取引開始三か月は原則二〇枚以内」とされているにもかかわらず、被告らは、いきなり一〇〇枚という大量の枚数を建てさせた。

(六) 外務員の頻繁な交代

八か月弱の本件取引において、外務員が三人も交代している。被告会社は、外務員を交代させる度に、原告に対し、今度は損を取り返してくれるのではないかという新たな期待を抱かせ、新たに金員を引き出し、結局は損失を増大させた。

(七) 原告の売買指示ないし意向無視

原告は、被告大沢、同恒吉に対し、「三円逆に行ったらすぐ仕切るように」という一般的指示を出していたにもかかわらず、右被告らは右指示を遵守しなかった。

12  損害

(一) 損金相当損害金

三一九七万六二八二円

原告は、ゴム取引で三〇七三万〇九〇八円(うち手数料二一七四万六七〇〇円)の損金、金取引で二二七万三六三八円(うち手数料一〇四万円)の損金、小豆取引で一〇二万八二六四円(うち手数料三五万二〇〇〇円を差引後)の益金となり、以上全取引を通算すると、三一九七万六二八二円(うち手数料二三一三万八七〇〇円)の損金となり、右損金相当額の損害を被った。

(二) 弁護士費用 四〇〇万円

三  被告は、本件取引において、原告主張のとおり原告に損金が発生したことは認めたが、取引の経過や違法性について要旨次のとおり反論した。

1  危険性の説明

被告浅田は、平成七年一月一〇日午後四時ころ、平成六年一一月に被告会社が行ったアンケート電話により見込み客とされていた原告に架電し、金の商品先物取引を勧誘し、参考資料を届けることになった。被告浅田は、同日午後六時ころ、原告の事務所に右資料を届けたうえ、翌一一日再び架電して一三日午後二時に会う約束を取り付けた。被告浅田は、右約束の日時に原告方事務所喫茶店で原告と会い、金の相場の状況を詳しく説明し、証拠金に充てる予定の株式の銘柄と数量を聞き、その過程で必要な範囲の先物取引の仕組み等も話した。その結果、原告から金を一〇〇枚位買う考えがあることを聞き、次の面会の約束をした。被告浅田は、右約束に従い一四日午後一時ころ、原告と面談し、商品先物取引の危険性、追証拠金の仕組みと金額、値幅制限、委託手数料等の重要な点についてわかりやすく説明し、受託に必要な書類の交付・受領(二〇枚を超える建玉をする旨の原告の自筆による建玉申請書を含む。)をし、委託証拠金に充てる株券を受け取り、被告は、一七日前場一節で成行値段で一二月限一〇〇枚買建の取引注文を受けた。

2  原告の主体的取引

本件取引は、原告が相場と自己の取引の状況を理解把握したうえで、自己の判断に従って指示注文し行われたものである。委託者が相場の短期間の値動きをみて短期間のうちに利益をとろうとすれば、当然その結果として多数回の建玉と決済を行うことになる。そして、取引期間が長くなれば、全体としての取引回数は多くなり、いきおい取引が損失という結果に終わった場合に売買差損に比べて委託手数料の合計額が大きくなる傾向となることは自然なことである。本件において、原告は委託手数料の金額を理解しながら目先の値動きを追って自ら利益を得ようと取引の指示注文を行ったものである。むしろ、被告浅田らは、原告の取引の指示に対して、より慎重に抑制して行うよう助言することもあったにもかかわらず、原告はその助言を聞き入れなかったのである。

3  両建・因果玉

原告は、自己の相場観により、損計算になっている建玉をその時点で手仕舞いして帳尻上の損失を出すことをしないで、委託手数料と一定の委託証拠金が必要になり、また、当初の手持玉と両建した反対玉との両方の決済の時期を首尾良く判断して注文しなければ両玉の売買差損益差引合計して利益に転ずる、あるいはより損を減らすような取引をすることが困難であることを了知の上で、当初の建玉を維持するため、被告浅田らに指示注文して両建取引を行ったものである。また、本件取引中には、結果から見て因果玉と評価できるような建玉が存在するが、いずれも原告が自己の思惑に基づいて、その建玉の値洗損の推移を十分理解しながら右建玉を維持することを選択したものである。むしろ、被告恒吉らは、原告に対し、値洗損が増加していた建玉を早めに決済することを折りにふれ勧めた。

なお、売買の経過が別紙売買経過表のとおりであることは認める(ただし、小豆・行四の値段は一一九〇〇、ゴム・行一〇五の限月は95.12、ゴム・行一二二の限月、値段はそれぞれ95.12、135.2である。)。

4  新規委託者からの取引受託

日本商品取引員協会連合会の指導により、被告会社内の自主的な規則として受託業務管理規則が定められているところ、右規則六条3によれば、取引開始後三か月間において商品先物取引の経験のない新規委託者の場合には、当該委託者の資質、資力等を考慮のうえで、相応の建玉枚数の範囲において取引を受託することとし、その取引を受託するか否かの判断を二〇枚以内ならば個々の担当外務員ですることができるが、それを超える建玉の要請があった場合にこれを受託するか否かの判断は社内の管理担当班の部署で行うことにしている。本件においても、原告から二〇枚を超える一〇〇枚の取引をしたい旨の申出があり、右申出に基づく社内の審査において建玉受託の承認がされたものである。また、原告は、先物取引の経験者であり、原告の経歴、職業、株取引の経験等から先物取引を行う資質に欠けるところはなく、資力の点でもいわば遊休資産である約一四〇〇万円相当の株券を預託し委託証拠金として十分余裕のある一〇〇枚(委託証拠金七五〇万円)を建玉しようというのであるから、そもそも原告は受託業務管理規則の右条項の適用外である。

5  手仕舞の指示の不存在

原告から被告大沢に対し、四月一九日より以前に、建値より逆方向に三円値が動いた時には手仕舞うことにしたらどうかという相談があったが、被告大沢は、値段は急激に上下して戻ることもあるので始めからそのように決めておくとかえって損になることがある旨返答した。右のとおり意見交換程度の話があったのみであり、原告から被告浅田はもちろん被告大沢に対し、三円逆に動いたら手仕舞う旨の指示はされていない。また、原告は、五月三一日、被告大沢から被告恒吉に担当者が交代する際に、被告恒吉に対し、「今後新たに建玉をした場合に、三円逆方向に動いた時すぐ決済する方法をとりたいんだが、どうだろうか。」との話があったが、被告恒吉は、「やはり、この場でそのように決めておくと思わぬ損失を被ることもありますので、その都度連絡を取って仕切るかどうか判断するという方がよいと思います。」と答え、原告も「わかった。ではそういう時は必ず連絡をくれ。」と了解したものであり、原告から被告恒吉に対し、三円逆に動いたら手仕舞う旨の指示がされていたものではない。

第三  争点に対する判断

一  勧誘行為に関わる違法性の主張について

1  後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、昭和一四年一月一日生まれで本件取引当時は五六歳であった。原告は、高校卒業後劇団員を経て、殺陣師の修業をし、昭和三九年に若駒グループを結成して以後殺陣師として芸能関係の仕事をしてきた。原告は、昭和四六年、若駒プロを設立し、代表取締役には原告の兄である小林俊男が就任したが、実質的には取締役である原告が代表者として右会社を運営し、テレビの時代劇における殺陣の指導などをしていた(甲四、乙四九、八〇、原告)。

原告は、二〇代のころ、先輩に誘われて五万円から一〇万円を先物取引に投資したことがある。また、原告は、昭和六〇年ころ、先物取引会社に勤務していた兄の小林二郎を通じて小豆やゴムの先物取引をしたことがある。原告は、昭和六二年ころから数年間、少なくとも六〇〇〇万円ほどを投資して株式の現物取引をしていた(甲四、乙八〇、八一、原告)。

(二) 被告会社の従業員山野井珠恵は、平成七年一一月一七日、若駒プロに架電し、応対した原告に対しアンケート調査を実施した。原告は、右アンケートにおいて、購読紙について朝日新聞、日本経済新聞、景気について横ばい、円相場について円安が進む(一〇〇円前後)、株価について徐々に上昇する、最近の金価格について知っている(安い)、預金等の金利情勢について関心がある、投資の有無について現物の株式を保有しているが売買はしていないなどと応答した(乙四五、五一、被告浅田、原告)。

(三) 被告浅田は、右アンケート結果から、被告会社の見込客名簿に登載された若駒プロ代表(その時点では氏名は不明)に対し、平成七年一月一〇日、架電し、仕事の内容や保有株式について尋ねたうえ、「金は高い時で六五〇〇円近くもしていたのですが、今は一二〇〇円台になっています。今、金を買えば儲かります。」などと保有株式を担保にした金の先物取引を勧誘した。被告浅田は、原告から資料を求められたため、金の値動きのグラフ(乙五二)、株券の評価額を示した充用有価証券価格表(乙五三)、金の相場に関する資料、商品先物取引委託のガイド(乙八)、右ガイドの別冊(乙九)、さらに特に原告から求められた被告会社の信用証明として日刊工業新聞に掲載された日本商品取引員協会の会員名簿(乙五四)を同日若駒プロの事務所に届けた。右商品先物取引委託のガイドは、商品取引所法九四条の二により交付を義務づけられた書面であり、「先物取引においては、総取引金額に比較した少額の委託証拠金をもって取引するため、多額の利益となることもあるが、逆に預託した証拠金以上の多額の損失となる危険性があること」「相場の変動に応じ、当初預託した委託証拠金では足りなくなり、取引を続けるには追加の証拠金を納入することが必要となることがあり、追加の証拠金についても全額損失となり戻らないことになることもあること」などが明記され、商品先物取引の仕組み、取引の委託、委託証拠金、取引の決済等についての説明が記載されている。被告浅田は、翌一一日、原告に架電し、同月一三日午後三時に詳しい説明をするために事務所を訪問する旨約束した(乙四五、五五、被告浅田)。

(四) 被告浅田は、同月一三日午後三時、山野井珠恵とともに若駒プロの事務所を訪問し、原告に対し、金の過去三年間の一週間ごとの始値、高値、安値、終値を表した週間足と呼ばれるグラフと過去一〇年間の一か月ごとの始値、高値、安値、終値を表した月間足と呼ばれるグラフにより金の価格の推移の状況を示し、「今までこんなに高かったのがこんなに安いから、今、金を買えば儲かる。」旨勧誘した。被告浅田は、金の価格と為替相場の関係、価格の見通しと売り、買いの関係、金の最小取引単位(一枚は一キログラム)とその取引に必要な委託証拠金額(一枚につき七万五〇〇〇円)について説明したうえ、原告から保有株式の銘柄と数量を聴取した。原告は、一〇〇〇万円位になる旨話し、被告浅田で充用有価証券価格表で確認すると原告の言うとおり一〇四六万円であった。被告浅田が、原告が先物取引に参加する気持ちになっていたことから、何枚位から始めるか尋ねたところ、原告は一〇〇枚位と返答した。被告浅田は、翌一四日午後一時に契約のために事務所を訪問する旨約して辞去した(乙四五、五五、被告浅田)。

(五) 被告浅田は、翌一四日午後一時、若駒プロの事務所を訪問した。被告浅田は、原告に交付済みであった商品先物取引委託のガイド(乙八)を示し、原告に読んだか否か確認したところ、原告は、「詳しくは見ていないが以前にゴムと小豆の先物取引をしたことがあるので、大体のことはわかっている。その時はだいぶ損をした。」と返答したため、被告浅田は、初めて原告に先物取引の経験があることを知った。被告浅田は、右ガイド及びその別冊(乙九)を示しながら、先物取引は利益になることもあれば損をすることもあること、金の呼値の単位は一グラムであるから一〇円動くと一枚につき一万円の損益が出ること、損益計算の方法、委託手数料の額、取引には委託手数料のほか取引所税と消費税がかかること、委託追証拠金が必要になる場合があること、被告会社の受託業務管理規則(乙四四)では新規委託者については三か月間の習熟期間中は原則として二〇枚以内の建玉枚数の範囲において取引を行うため、一〇〇枚の建玉をするために特に建玉申請書が必要になることなどを説明した。その上で、被告浅田は、商品先物取引委託のガイド、受託契約準則(乙七の七、八)、受託業務管理規則について説明を受けたことを確認するための「お取引きについての説明事項」と題する書面(乙五)に原告の署名押印を得た。さらに、被告浅田は、「先物取引の危険性を了知した上で……私の判断と責任において取引を行うことを承諾」する旨の記載のある約諾書(乙一)、氏名・住所等の通知書(乙二)、印鑑票(乙三)に原告の署名押印を得、「取引の仕組み・リスクなどを十分に理解した上で、現在の状況と資金面を考慮した結果、……二十枚を超える建玉を委託致します」と記載された原告の自筆の建玉申出書(乙四)の提出を受けた。次いで、被告浅田は、原告から委託証拠金預り証(乙一七の一ないし五)と引換えに富士重工一万株等五銘柄の株式を委託証拠金として預り、商品取引所等に預けることについての同意書(乙二九ないし三三の各二)に原告の署名押印を得た。被告浅田は、書類作成が済んだため、一月一七日の取引が始った寄付で金の一二月限を一〇〇枚買建することでよいかと原告に確認し、その了解を得た(乙四五、被告浅田、原告)。

(六) 原告は、平成七年一月二〇日、被告会社に対し、商品先物取引委託のガイド、委託契約準則及び商品先物取引の危険性について、委託証拠金制度の各説明を受けて理解できた旨アンケートに○印を付けて被告会社に送付した(乙二五、原告)。

(七) 原告の担当者は、平成七年三月一七日から被告大沢に引き継がれたところ、被告大沢は、同年四月一一日、原告に対しアンケート調査を実施した。原告は、右アンケートにおいて、値動きを見て損益計算ができる、委託追証拠金制度をよく理解しており、預託額の計算ができ、入金、一部又は全部の手仕舞等対処の仕方も承知している、値幅制限については承知しているなどアンケートのすべての項目に○印を付け署名押印した。その際、被告大沢は、原告から「何でこんなものを客からもらうのか。客が損して文句を言ったときに防衛するためか。」などと聞かれたため、顧客の理解を確認するためである旨返答したところ、原告は「訳もわからんでこんな取引をする人はいないだろう。」と言った(乙二六、四六、被告大沢)。

2  右の事実によれば、原告には商品先物取引の経験や多額の株式の現物取引の経験があり、また、原告の兄が商品先物取引会社に勤務していたことから先物取引について従前から一定の知識経験を有していたと推認できるところ、被告浅田から事前に商品先物取引委託のガイド等商品先物取引の危険性を明記した書類の交付を受け、二度面談して、右ガイド等に基づいて商品先物取引の仕組みや危険性等について説明を受け、それを理解した旨表明したうえ、被告会社と委託契約を締結しているのであって、被告らは、原告に対し、商品先物取引の危険性の告知について説明義務を尽くしたと認められる。

被告浅田が金の値動きの状況を示して「今、金を買えば儲かる。」旨原告に話したことは前認定のとおりであるが、原告の知識経験に照らし、また、被告浅田の説明自体から、被告浅田の右言辞は金の値動きの状況から一つの予測を示したものであることは明らかであるから、原告の自主的判断の余地をなくすまでのものとは認められず、断定的判断の提供とまでは認められない。

新規受託者の建玉制限についても原告が受託業務管理規則(乙四四)六条三項の「商品先物取引の経験のない新たな委託者」に当たらないばかりか、原告から右制限を超える枚数の注文があり、一応原告から建玉申出書の提出を受けて被告会社において右建玉の受託を認めたのであるから、被告会社の受託業務管理規則に違反するものではない。

3  したがって、勧誘の際の被告らの行為に違法性は特に認められない。

二  取引の過程における違法性の主張について

1  原告の売買の経過が被告ら主張の点を除いて別紙売買経過表記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、証拠(乙一〇の四、五七、六三、乙四五、四七)によれば、別紙売買経過表のうち小豆・行四の値段は一一九〇〇、ゴム・行一〇五の限月は95.12、ゴム・行一二二の限月、値段はそれぞれ95.12、135.2であることが認められる。

2  売買指示違反について

原告は、平成七年三月一七日に被告大沢に対し、同年五月三一日に被告恒吉に対し、それぞれ「三円逆に言ったら仕切ってください。追証のかからない範囲でやってください。」と一般的指示を出していたにもかかわらず、右被告らはこれを無視した旨主張し、甲四号証の陳述書や原告本人尋問の結果中にはそれに沿う部分がある。

しかしながら、右記載や原告本人尋問の結果は、乙四六、四七号証、被告大沢、被告恒吉各本人尋問の結果に照らしてたやすく採用できない。ことに、原告は、追証拠金として、平成七年三月一七日以降、同年五月二六日に二四一万五〇八八円(乙一九の一、乙二四の二)、同月三一日に三〇〇万円(乙一九の二、乙二四の三)、同年六月一二日に九三万円(乙一七の一一)、同月一五日に七〇〇万円(乙一七の一二、乙二四の四)、同年七月一二日に二八〇万円(乙一七の一四、乙二四の五)を被告会社の請求に応じて現金ないし小切手でそれぞれ預託しているところ、特に同年六月一五日の追証拠金は、その時点で原告が建てていた一〇月限一〇〇枚の買玉及び一一月限一〇〇枚の買玉がいずれも三円以上値下がりしたため必要となったものであるが、原告は五二五万円の請求に対して七〇〇万円を預託しているのである。右追証拠金の預託は、原告が被告に対して三円逆に行ったら仕切り、追証拠金がかからないようにという指示を出していたにもかかわらず、被告大沢らがこれを無視したことにより追証拠金が必要になったとすれば、通常理解しがたい行為であって、むしろ原告主張のような指示はなかったと認めるのが自然である。

したがって、売買指示違反に関わる原告の主張は理由がない。

3  因果玉の放置について

原告は、因果玉とならないよう原告の注意を喚起すべきであったと主張するが、証拠(乙二一の一ないし一六、乙二二の一ないし三、乙二三の一ないし一三、乙二四の一ないし一〇、乙四五ないし四七、被告浅田、被告大沢、被告恒吉)によれば、被告会社は、原告に対し、毎月一回、その時点における建玉の内容や値洗差金等を記載した残高照合通知書を送付したこと、委託証拠金が不足した際には、被告会社から原告に委託証拠金請求書が送付されるが、右請求書には各建玉の値洗差金が記載されていること、原告は、本件取引期間中、前後一三回にわたってその時点における建玉について値洗差金等が記載された残高確認書を被告会社に差し入れていること、被告浅田、被告大沢、被告恒吉は、取引所立会日にはほぼ連日のように原告に連絡を取り、値動きの状況とともに原告の建玉の値洗損益の状況を適宜報告していたことが認められる。

右の事実によれば、被告らは、原告に対し、建玉の損益状況や値洗差金の状況を随時報告していたと認められるから、結果として、因果玉とみられる建玉が存在するとしても、被告らが右因果玉を違法に放置せしめたとまでいうことはできない。

4  両建、過当取引について

(一) 両建は、片玉をはずすタイミングが難しく、また、両建をした時点で差損差益が確定されるが、これは仕切った場合と同様であり、双方の建玉に委託証拠金や委託手数料を要する分だけ委託者には不利益である。両建を勧めることは、商品取引員の受託業務に関する取引所指示事項で限月の相違にかかわらず禁止されている(甲一)。

別紙売買経過表によれば、小豆三回の建玉中一回、ゴム四八回の建玉中二六回(うち限月を同じくするものが一九回)は両建となっており、特にゴムについてはその割合は五四パーセントにも及んでいる。また、売玉を仕切って同日売玉を建てたり、売玉を建てながら同日別の売玉を仕切るなど通常委託手数料が増えるだけの委託者にとって無益な取引(いわゆる売り直し)や既存の建玉を仕切り、同日に反対玉を建てるなど無定見に行われると徒に委託手数料を増加させるだけの取引(いわゆるドテン)も頻繁に行われており、これら適切とは言い難い取引を加えると、不適切な取引の割合はさらに高くなる。

(二) 別紙売買経過表によれば、建玉数は、最大四八〇枚(平成七年七月一二日から同月一七日までの間)に達し、売買回数も新規と仕切をそれぞれ一回として計算すると、同年一月一七日から同年九月一一日までの間(取引所立会日は一六六日間)に金二回、小豆六回、ゴム一二二回の合計一三〇回に及んでおり、平均約1.25日に一回の売買が行われていたことになる。これは、一般消費者の投資としては異常に高い売買回転率である。そして、とりわけゴム取引により原告に生じた損金合計三〇七三万〇九〇八円のうち委託手数料は二一七四万六七〇〇円にも及び(争いがない。)、その率は右損金中の七〇パーセントを超えている。この損金に占める委託手数料の多さは、両建等の不適切な取引や売買回転率の高さ等に起因するものであることはいうまでもない。

(三) 約八か月の本件取引期間中に被告の担当者が被告浅田、被告大沢、被告恒吉と三名交代したことは当事者間に争いがない。取引所指示事項は、担当外務員を不必要に交代するなど、受託者との信頼関係を損なうことを禁止している(甲一)。取引期間からすると、異常に多い交代であり、損われかけた信頼関係を担当者の交代によって新たな期待をもたせることで修復し、取引を引っ張ったと評価されてもやむを得ない面がある。

(四)  先物取引は、少額の委託証拠金によって多額の取引を行うことができる投機性の高い取引であり、わずかの値動きによって多額の差損金を生じる可能性があり、しかも損益を決する相場は、需要と供給の関係のみならず、政治、経済、為替相場の変動等の複雑な要因によって変動するため、その確実な予測はきわめて困難なものである。したがって、その危険性の大きさ故に、顧客保護のために種々の法的規制等が行われているところ、先物取引員及びその従業員は、右法的規制等を遵守し、違法な方法によって顧客を先物取引に勧誘してはならないだけでなく、取引の過程においても顧客が予想しない大きな損害を被ることがないよう努めるべき高度の注意義務が課せられているというべきである。まして、商品取引員及びその従業員が自らの利益獲得のため、委託者に損失を被らせる意図で行動してはならないことはいうまでもないところ、右(一)ないし(三)で認定した事実からすると、被告らには少なくとも右注意義務に違反する過失があったと認められる。

被告らは、原告の損失は、自己の判断に従って指示注文した結果である旨主張するが、乙四五ないし四七号証によれば、ほぼすべての取引について被告浅田ら担当者の方から原告に架電するなどして連絡を取り、注文を受けていること、両建についても既存の建玉に値洗損が生じている状況下において被告浅田ら担当者において選択肢の一つとして原告に提案していることが認められるから、個々の取引が最終的に原告の判断によって行われたからといって、被告らの責任がなくなるわけのものではない。

三  原告が本件一連の取引によって、合計三一九七万六二八二円の損失を被ったことは当事者間に争いがない。

しかし、前認定の事実及び証拠(乙四五ないし四七、被告浅田、被告大沢、被告恒吉)によれば、被告らは、本件取引に際し、先物取引の危険性を原告に説明していること、原告は、先物取引について十分な能力を有しないとはいえ、過去に多額の株式の現物取引や先物取引の経験も有しており、本件取引過程においても、被告担当者の意見とは異なる自己の相場観に基づいて注文をしたこともあるなど、一定の経済的能力を有していたこと、平成七年五月一二日には建玉がなくなり、その時点での差引帳尻損金が一四一四万六七六四円となった際、被告大沢から一度取引を精算して様子を見ることを勧められたが、原告はその後も取引を継続したこと、原告は、被告らから、定期的ないし取引の都度随時、書面又は口頭で当時の建玉の内容や損益状況の告知を受け、被告担当者の助言を受けながらも最終的には自己の判断で取引をしていたこと等の事実が認められる。

以上の点を考慮すると、原告にも過失があったといわざるを得ず、公平の観点から、原告の過失割合を七割として、前記損害額から控除するのが相当である。

そうすると、損金相当損害金は九五九万二八八五円となる。

本件事案の難易、訴訟の経緯、認容額等に照らすと、弁護士費用のうち一〇〇万円が被告らの不法行為と相当因果関係にある損害として認められる。

四  以上によれば、原告の請求は、被告ら各自に対し、一〇五九万円二八八五円及びこれに対する不法行為後の日である平成七年九月一一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 足立哲)

別紙売買経過表(金)〈省略〉

別紙売買経過表(小豆)〈省略〉

別紙売買経過表(ゴム)〈省略〉

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